バベルの塔

Tower of Babel

 洪水を生き延びたノアの子孫は、再び数を増やしながら地上に広まっていった。この頃の人間たちは、世界中で同じ言葉を話している。人が増えるにつれて技術も進歩し、レンガやアスファルトを使うことで、石やしっくいでは作れなかった巨大な建造物を作ることも可能になった。

 新しい技術を手にした人間たちは、天まで届く塔を作ろうと考えた。巨大な塔を中心に町を作り、そこに世界中から人を集めるのだ。作業は急ピッチに進められ、町の規模もどんどん大きくなって行く。だが神はこの様子を見て不快に思った。

 「人間はひとつの民でひとつの言葉を話しているから、こんなことをはじめたのだ。このままではいずれ、誰も人間を止められなくなるだろう」。神は人間の言葉を混乱させ、互いの言葉を聞き分けられない状態にした。塔のある町の建設は中断し、その地はバベルと呼ばれるようになった。神が言葉を混乱(バラル)させ、人々を世界中に散らせたからだ。

(創世記 11章)


【解説】

 バベルの塔のモデルになったのは、メソポタミアの各地に作られたジッグラトと呼ばれる古代の高層建築だとされている。日干しレンガを使った高さ数十メートルの建物で、その頂上には天上の神々を奉る神殿があったらしい。メソポタミアの町はジグラットを中心に建設されていたようで、そのいくつかは現在でも遺跡として残されている。

 この物語に登場するバベルは、古代メソポタミアで最大の都市だったバビロンのことだ。紀元前6世紀のバビロンには、高さ90メートルにもなる巨大なジグラットがあったという。これは古代人から見れば、天空を貫く巨大な塔だったろう。

 この時代、新バビロニア帝国の王ネブカドネザル2世によって、多くのユダヤ人がバビロンへと強制移住させられた(バビロン捕囚)。メソポタミアの交通の要衝でもあったバビロンは、多くの民族や言語が入り乱れる国際都市だった。町の中心にそびえる巨大な塔に、ユダヤ人たちは度肝を抜かれたことだろう。しかしそれから半世紀ほど後に、バビロニアはアケメネス朝ペルシアの初代国王キュロスとの戦いに敗れて滅亡し、ユダヤ人たちは捕囚から解放される。

 塔のある巨大な町に集められた人々は、再び世界中へと散って行く。ユダヤ人たちはキュロスを自分たちを救う者と賛美し、バビロニアの滅亡を神の意志だと考えた。バビロン捕囚や捕囚からの解放は旧約聖書の中でも後に大きなモチーフとして取り上げられるのだが、バベルの塔の物語にもこうした民族の歴史が反映しているのだ。

 だがバベルの塔の物語が面白いのは、これが「世界にはなぜ多くの人種や民族があるのか?」や「なぜ世界には多くの言語があるのか?」の説明になっているからだろう。同時にこれは、人間が神の領域に手を出して破滅するという物語の元型でもある。SF小説の元祖とされるメアリー・シェリーの小説「フランケンシュタイン」なども、ストーリーのルーツはバベルの塔だろう。

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